iDeCoと退職金、受け取る順番で税金が変わります|2026年1月から「10年ルール」に延長された制度をわかりやすく解説

iDeCo(個人型確定拠出年金)の一時金は、税金の計算上、会社の退職金と同じ「退職所得」として扱われます。退職所得には、税負担を大きく抑えられる「退職所得控除」という仕組みがあります。ただ、iDeCoと退職金を近い時期に受け取ると、この控除の一部が重複して使えなくなることがあるようです。2026年1月からは、その判定期間の一つが5年から10年に延びました。今回は、この制度の仕組みと、受け取る順番によって何が変わるのかを整理してみます。
iDeCoの一時金も、退職金と同じ「退職所得」として計算されます
退職所得には、退職所得控除という非課税枠があります。勤続20年以下では40万円×勤続年数(最低80万円)、20年を超える部分には70万円×超えた年数が加わります。iDeCoの一時金を受け取る場合も、計算式は同じです。
ただし「勤続年数」の代わりに使うのは、iDeCoに加入していた年数のようです。控除額を差し引いた残りをさらに半分にしてから課税するため、給与など他の所得に比べると、税負担はかなり軽くなります。
iDeCoの受け取り方には、一時金・年金・併用の3つがあります
ここまでは、iDeCoを一時金でまとめて受け取るケースを見てきました。実はiDeCoには、一時金のほかに「年金」として分割で受け取る方法、両方を組み合わせる「併用」という方法もあります。それぞれ税金の扱いが異なり、向き不向きがあるようです。
一時金のメリット・デメリット
一時金として受け取ると、退職所得控除が使え、しかも1/2課税・分離課税という優遇が受けられます。まとまった資金をすぐに使える点もメリットではないでしょうか。
一方で、退職金と受け取り時期が近いと、ここまで説明してきた重複排除の対象になり、控除が目減りすることがあります。受け取った後の資金は、自分で管理・運用していく必要もあるようです。
年金のメリット・デメリット
年金として分割で受け取ると、公的年金等控除が使えます。65歳以上であれば年間110万円、65歳未満であれば年間60万円まで、公的年金等の合計額がこの範囲内であれば税金がかからない仕組みです。運用を続けながら少しずつ受け取れるため、まとまった資金を使い切ってしまう心配が少ないのもメリットのようです。
一方で、受取期間中は口座の管理や給付のたびに手数料がかかり続けます。また、公的年金など他の所得と合算される「総合課税」のため、所得によっては税率が上がったり、国民健康保険料や介護保険料の算定に影響したりすることがあるようです。
併用のメリット・デメリット
一時金と年金を組み合わせる方法では、一時金部分に退職所得控除、年金部分に公的年金等控除と、両方の非課税枠を使い分けられます。退職金や公的年金の見込み額に合わせて、非課税枠に収まるよう配分を調整しやすいのがメリットです。
ただし、一時金と年金の両方の仕組みを理解した上で配分を決める必要があり、判断はやや複雑になります。併用に対応していない金融機関もあるため、事前の確認も欠かせません。
退職金が少ない方は一時金、退職金や公的年金がすでに多い方は年金や併用のほうが、税負担を抑えられるケースもあるようです。
具体的な数字で比べてみます
たとえば、iDeCoの資産が1,200万円、加入期間が20年の方を例に、一時金と年金、それぞれの税負担を概算してみます。他に退職金や公的年金の受給がないものとして、話を単純にしています。
一時金で受け取る場合
・退職所得控除 = 40万円×20年 = 800万円
・課税退職所得 = (1,200万円-800万円)×1/2 = 200万円
・所得税(速算表 10%-97,500円)+復興特別所得税 ≒ 約10.5万円
・住民税(課税退職所得の一律10%) ≒ 約20万円
・税負担の合計 ≒ 約30万円
年金として10年間で受け取る場合(65歳以上と仮定)
・年間の受取額 = 1,200万円÷10年 = 120万円
・公的年金等控除(65歳以上・年金収入330万円未満)= 110万円
・雑所得 = 120万円-110万円 = 10万円
・令和7年度改正後の基礎控除(合計所得132万円以下で95万円)を差し引くと、課税所得は実質0円
・税負担 ≒ ほぼ0円(住民税もかからない水準)
同じ1,200万円でも、一時金なら約30万円の税負担が生じる一方、年金として少しずつ受け取ると、この例では税負担がほとんど生じない計算になります。
ただし、これは公的年金や他の所得がないという前提での試算です。実際には厚生年金などの公的年金と合算されるため、年金として受け取る金額次第では、控除の枠を超えて税負担が生じることもあります。
あくまで一つの目安として捉えていただければと思います。
近い時期に受け取ると、控除が「重複排除」されます
退職金とiDeCoの一時金を両方受け取る方は、少なくないようです。この場合、それぞれの受取時期が近いと、勤続期間とiDeCo加入期間が重なっている部分の控除は、二重には使えない仕組みになっています。これを「重複排除」と呼ぶようです。重複する期間の分だけ、後から受け取る一時金の控除額が差し引かれます。結果として、税金が想定より増えてしまうケースがあるようです。
重複排除の計算式
重複排除が働く場合、後から受け取る一時金の退職所得控除額は、おおむね次の順番で計算されます。
後から受け取る一時金の加入期間に応じた退職所得控除額を計算する(40万円×加入年数、20年超部分は70万円×超えた年数。1年未満は切り上げ)
先に受け取った退職手当等と重複している期間に応じた控除額を、同じ式で計算する(こちらは1年未満を切り捨て)
1から2を差し引いた金額が、調整後の退職所得控除額になる
(一時金の収入金額-調整後の退職所得控除額)×1/2 が、課税対象額になる
たとえば、60歳でiDeCoの一時金(加入22年)を受け取り、65歳で会社の退職金(勤続30年・2,000万円)を受け取るケースを考えてみます。間隔は5年です。2026年1月以降に退職金を受け取る場合、iDeCo→退職金の間隔判定は10年ルール(前年以前9年内)が適用されるため、5年しか空いていないこの例は重複排除の対象になります。ここでは、iDeCoの加入期間22年がまるごと会社の勤続期間に含まれていたと仮定します。
退職金(勤続30年)の控除額 = 800万円+70万円×(30年-20年) = 1,500万円
重複期間(22年)分の控除額 = 800万円+70万円×(22年-20年) = 940万円
調整後の退職所得控除額 = 1,500万円-940万円 = 560万円
課税対象額 = (2,000万円-560万円)×1/2 = 720万円
重複がなければ本来1,500万円の控除が使えたところ、60歳の時点でiDeCoの加入期間である22年分の控除額を差し引き560万円まで縮小してしまう計算です。
同じ5年という間隔でも、退職金を2025年中に受け取ることができれば、今回の改正による10年ルール(前年以前9年内)には該当せず、重複排除の対象にはならなかった点も押さえておきたいところです。実際の重複期間の判定や端数処理は、退職金の勤続期間やiDeCoの加入期間の組み合わせによって変わり、計算はかなり複雑になります。正確な金額を知りたい場合は、税務署や勤務先の担当窓口、税理士に確認することをおすすめします。
受け取る順番によって、間隔のルールが変わります

重複排除の判定期間は、受け取る順番によって3つに分かれています。
・退職金→退職金の場合:前年以前4年内(いわゆる5年ルール)。今回の改正でも変わりません。
・iDeCo→退職金の場合:これまでは前年以前4年内(5年ルール)でしたが、2026年1月1日以後に受け取る退職金からは前年以前9年内(10年ルール)に延びました。
・退職金→iDeCoの場合:前年以前19年内(19年ルール)。こちらも据え置きのようです。
iDeCoを先に受け取ってから会社の退職金を受け取る方は、これまでより間隔を長く空けないと、控除が重複排除される対象になってしまうようです。
60歳以降は、退職所得以外の税金も変わってきます
60歳を過ぎると、再雇用で働きながら年金も受け取る、という方が増えてきます。ここで押さえておきたいのが、退職所得は「分離課税」だという点です。退職金やiDeCoの一時金にかかる税金は、給与所得や公的年金等の所得とは合算されず、単独で計算されます。同じ年に再雇用の給与や年金収入があっても、退職所得の税率区分が一気に引き上がる心配は少ないようです。
一方で、給与所得や公的年金等の所得(こちらは総合課税)については、令和7年度税制改正で基礎控除や給与所得控除の見直しが行われました。基礎控除額は、合計所得金額に応じて従来の48万円から最大95万円に引き上げられており、令和7年分以後の所得税から適用されています。加えて、公的年金等控除の金額は65歳を境に変わる仕組みになっています。60歳以降は、退職金やiDeCoだけでなく、いつ・どの所得を・どれだけ受け取るかによって、全体の税負担が変わってくるようです。
影響を受けやすいのは、60代前半で両方を受け取る方です
たとえば60歳でiDeCoの一時金を受け取り、65歳で会社の退職金を受け取るケースを考えてみます。間隔は5年です。2025年中にiDeCoを受け取っていれば、これまでのルールが適用されるため、重複排除の対象にはならなかったようです。しかし2026年1月以降に退職金を受け取る場合は、10年ルールが適用されるため、間隔が5年では足りず、控除の一部が重複排除されてしまいます。60代前半でiDeCoと退職金の受け取り時期が重なりやすい方は、注意が必要ではないでしょうか。
今からできる備え
・退職金とiDeCoを受け取る予定の時期を、早めに書き出しておく
・iDeCoを先に受け取る場合は、退職金までの間隔が10年以上空くかどうかを確認しておく
・退職金や公的年金の見込み額をもとに、一時金・年金・併用のどれが自分に合っているか検討しておく
・間隔を十分に空けられない場合は、どちらか一方を「年金形式」で受け取る方法も選択肢に入れておく。年金形式であれば公的年金等控除の対象になり、重複排除の仕組み自体とは関係がなくなるようです
・判断に迷う場合は、税務署や勤務先の担当窓口に確認しておく
退職金とiDeCo、それぞれの受け取り方を別々に考えるのではなく、あわせて設計しておくことが大切なようです。