終活の資金準備|終身保険と資産取り崩しの正しい使い分け方

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2026.09.03



終活というと、遺言書やエンディングノートを思い浮かべる方が多いかもしれません。ただ、ご相談の現場で最後に必ず出てくるのは、少し違う問いのようです。今ある資産を、これからどう使い、どう遺すか。この2つを、同じ「お金」として一緒に考えてしまう方が少なくありません。

終身保険と、毎月分配型ファンドや資産の取り崩しは、老後の資金づくりの手段としてよく並べて語られます。ただ、この2つは終活における役割がそもそも違うようです。混同したまま選んでしまうと、遺したかった相手に遺せなかったり、生活費が想定より早く底をついたりすることもあります。

終活で分けて考えたい「遺すお金」と「使うお金」

終活のお金の設計は、大きく2つに分けられそうです。

ひとつは、自分が生きている間に使うお金。もうひとつは、亡くなったあとに遺す相手へ渡すお金です。

似ているようで、必要な仕組みは違います。使うお金は、必要なときに必要な分だけ引き出せる柔軟さが求められます。遺すお金は、渡す相手と金額をあらかじめ固定できる確実さが求められます。

このあと見ていく終身保険と資産の取り崩しは、この2つのどちらに向いているかがそれぞれ異なります。まず「遺すお金」の代表格である終身保険から見ていきます。

遺すお金の代表格――終身保険をどう活かすか

終身保険が終活で選ばれるのは、「遺すお金」としての性質を持つからです。一生涯保障が続き、解約しない限り死亡保険金が支払われる仕組みのため、いつ相続が起きても受取人に確実に資金が渡ります。

保険金は受取人をあらかじめ指定できます。遺言書がなくても、指定した相手に直接渡すことができます。また、相続財産とは別枠で「500万円×法定相続人の数」までの非課税枠が設けられており、相続税の負担を抑える手段としても使われているようです。

死亡保険金は、受取人固有の財産として扱われます。そのため、遺産分割協議の対象には原則として含まれません。相続人同士で分け方がまとまらない、いわゆる「争族」を避けたい場合に、特定の相手へ確実に資金を渡す手段として選ばれることが多いようです。

ただし、これには例外もあります。保険金額が遺産総額に比べて著しく高額であるなど、相続人間の不公平が見過ごせないほど大きい場合には、判例上「特別受益に準じて」持戻しの対象となることがあります(最高裁平成16年10月29日決定)。終身保険は万能な対策ではなく、金額のバランスも合わせて考えたい点のようです。

もうひとつ、押さえておきたいのは、終身保険が「渡す金額と相手を固定する」仕組みだということです。途中で受け取る金額を増やしたり、生活状況に応じて引き出し額を調整したりすることには向いていません。この「調整できない」という性質が、次に見る「使うお金」との違いにそのままつながります。

使うお金の代表格――資産運用と取り崩し

終身保険が金額と相手を固定して遺すための仕組みだとすると、生きている間の生活費は、状況に応じて柔軟に取り出せる資産で備えることになります。その代表的な方法が、毎月分配型ファンドと、資産の計画的な取り崩しです。

毎月分配型ファンドの分配金、仕組みを正しく知る

老後の生活費を補う手段として、毎月分配金が受け取れる投資信託を検討する方もいます。ここで理解しておきたいのが、分配金の仕組みです。

日本証券業協会によると、投資信託の分配金は預貯金の利息とは異なり、投資信託の純資産から支払われます。分配金が支払われると、その金額相当分だけ基準価額は下がるようです。

分配金には「普通分配金」と「元本払戻金(特別分配金)」の2種類があります。運用がうまくいっている場合は運用益から普通分配金が支払われますが、運用状況によっては、預けた元本を取り崩して払い戻しているケースもあります。

運用益を上回る分配を続けた結果、基準価額が下がり続けてしまう状態は「タコ足分配」と呼ばれることがあります。受け取っている分配金だけを見ていると気づきにくく、解約や相続のタイミングになって「思っていたより資産が残っていなかった」ということも起こり得るのではないでしょうか。

投資信託協会の統計によれば、毎月分配型ファンドは2017年以降しばらくの間、購入額よりも解約・償還される額のほうが上回る状態が続いたとされています。仕組みへの理解が広がるにつれて、選び方が見直されてきた商品のひとつといえそうです。

取り崩し戦略のポイント――定率か、定額か

毎月分配型ファンドを使わなくても、保有している資産そのものを計画的に取り崩していく方法もあります。取り崩し方には主に「定額」と「定率」の2つの考え方があります。

「定額」は、毎回決まった金額を取り崩す方法です。生活費の見通しは立てやすい一方、資産残高が減っても取り崩し額は変わらないため、想定より早く資産が尽きてしまうことがあります。

「定率」は、そのときの資産残高に対して一定の割合を取り崩す方法です。残高が減れば取り崩し額も自然と減っていくため、資産が尽きるまでの期間を延ばしやすいとされています。その代わり、受け取れる金額が徐々に減っていく点は注意が必要です。

金融庁の金融審議会市場ワーキング・グループがまとめた報告書でも、高齢期の資産の取り崩し方は、老後の生活設計を考えるうえで重要なテーマとして扱われています。総務省の家計調査を見ると、65歳以上の無職世帯が持つ金融資産の6割程度は預貯金が占め、実際にはあまり取り崩されていない実態があるようです。「長生きリスク」への不安から、資産を使うこと自体に慎重になりやすい傾向がうかがえます。

終身保険と取り崩し、2つを組み合わせて考える

ここまで見てきたように、終身保険は「渡す相手と金額を固定して確実に遺す」ための仕組みです。毎月分配型ファンドや取り崩しは、「生きている間、必要な分だけ資産を使う」ための仕組みです。

終活でお金を考えるときは、この2つを対立させず、役割で分けて考えるとわかりやすいかもしれません。生活費は柔軟な取り崩しで日々の安心を確保しつつ、特定の相手に確実に遺したい金額は終身保険で固めておく、という組み合わせ方です。

どちらか一方だけで解決しようとすると、生活費が足りなくなったり、遺したい相手に遺せなかったりすることにつながりかねません。資産のうち、どこまでを「生きているうちに使うお金」とし、どこからを「遺すお金」とするか。その線引きから考えてみるのが、終活における資金計画の出発点になるのではないでしょうか。

参考

日本証券業協会「毎月分配型の投資信託とは?」
金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」(令和元年6月3日)
総務省統計局「家計調査報告」(2025年)
最高裁判所第二小法廷決定(平成16年10月29日)
吉野裕一

この記事を書いた人

吉野裕一 吉野裕一

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