住宅ローンは「借りられる額」ではなく「返せる額」で決める

ブログ

2026.08.07

buy house




先日、相談にいらした30代のご夫婦のお話です。共働きで世帯年収は800万円ほど。不動産会社の担当の方から「お2人なら6,000万円まで借りられますよ」と言われて、なんとなく借りられる気になっていたそうです。でも、銀行が「貸してくれる額」と、ご家庭が「無理なく返せる額」は、実はまったく別のものなんですよね。今回はその違いを軸に、住宅ローンの借り方を一緒に整理していきたいと思います。

まず、いまの金利がどうなっているかを知っておく

住宅ローンを考えるうえで、避けて通れないのが金利の話です。2026年7月時点で、変動金利は主要銀行の最優遇水準でおおむね0.9〜1.5%台。日銀の利上げを受けて、じわじわと上昇局面に入ってきています※1。一方、フラット35に代表される全期間固定金利は3.1%前後で推移していて、10年固定は銀行によって2.6〜3.4%台と、けっこう幅があります※2。

つまり、「変動のほうが安いから」という理由だけで選べる時代は、少しずつ終わりに近づいているということです。変動と固定の金利差は現在2%前後まで開いていて※3、この差をどう受け止めるかが、最初の分かれ道になります。

変動か固定か、判断基準は「金利の予想」ではありません

多くの方が「これから金利が上がるか、下がるか」で変動・固定を選ぼうとされます。でも金利の先行きは、正直なところ専門家でも外すものです。私がいつもお伝えしているのは、金利予想ではなく「金利が上がったとき、ご家庭がそれに耐えられるかどうか」という基準です。

変動金利には「5年ルール」と「125%ルール」という仕組みがあり、返済額の見直しは5年に一度、上昇幅も直前の1.25倍までに抑えられます。ただ、これは返済額が急に跳ね上がらないための緩和措置であって、支払うべき利息そのものが消えるわけではありません。未払い利息が元本に上乗せされるケースもあり、「見た目の返済額が変わらない=安全」というわけではない、というのは意外と誤解されやすいところです。

固定期間が終わると自動で変動金利に切り替わる商品もあるので、「10年固定を選んだから10年間は安心」と思っていたら、11年目にいきなり金利が跳ねていた、というご相談も珍しくありません。

借入額は「年収倍率」より「返済負担率」で考える

冒頭のご夫婦のケースに戻りましょう。世帯年収800万円で6,000万円の借入というと、年収の7.5倍です。かつては「年収の5〜6倍まで」がひとつの目安とされていましたが、共働き世帯が増えたいま、この倍率自体があまり意味を持たなくなってきました。

代わりに私が大事にしているのは「返済負担率」、つまり年収に対する年間返済額の割合です。金融機関の審査基準では30〜35%まで借りられることが多いのですが、実際に無理なく返していける水準は、手取りベースで20〜25%程度に収めるのが目安になります。額面年収800万円なら、年間返済額はおおよそ130万〜160万円、月々にして11万〜13万円台が現実的なラインでしょうか。

さらに見落とされがちなのが、教育費や車の買い替え、親の介護といった将来の支出です。35年ローンを組むということは、35年分のライフイベントと並走していくということ。借入時点の家計だけでなく、10年後・20年後の支出も含めて逆算しておく必要があります。

繰上返済は、実は「無リスクの運用」をしているのと同じ

頭金や余剰資金の使い道を考えるとき、もうひとつ整理しておきたいのが「繰上返済」と「資産運用」の関係です。この二つ、一見まったく別の話に見えて、実は同じ土俵に立っている選択肢なんです。

繰上返済で減らせる利息は、突き詰めれば「借入金利と同じ利回りの、元本保証・無リスクの運用」をしているのと、数学的には同じ効果を持ちます。いま変動金利の最優遇水準が0.9〜1.5%台であることを考えると、繰上返済によって確定できるリターンも、その水準にとどまるということです。

一方でNISA(少額投資非課税制度)を使って資産運用をする場合、成長投資枠は年間240万円、つみたて投資枠は年間120万円まで、生涯の非課税保有限度額は合計1,800万円まで、運用益が非課税になります。仮に全世界株式インデックスなどに長期・分散で投資して、年率3〜5%程度のリターンを前提とするなら(あくまで過去の実績にもとづく仮定であって、将来を保証するものではありません)、繰上返済で確定する利回りとの差分だけ、理論上は資産運用のほうが効率よくお金を育てられる可能性があります。この差額分を、私は「実質的な繰上返済相当額」とお伝えすることがあります。

もうひとつ、住宅ローン控除との相性も見逃せません。2026年入居分からは、省エネ性能を満たす住宅なら控除期間が最長13年、それ以外の住宅は10年、いずれも年末時点のローン残高の0.7%が所得税・住民税から控除されます※4。この制度が効いている間に繰上返済をしてしまうと、控除の対象となる残高そのものを自分で減らしてしまうことになり、せっかく制度が用意してくれている実質金利の引き下げ効果を、自分から手放すような格好になってしまいます。控除期間中は、繰上返済を急ぐ経済合理性はあまり高くない、というのが実感を伴った結論です。

とはいえ、この考え方には前提があることも、きちんとお伝えしておかなければなりません。運用リターンはあくまで期待値であって、保証されたものではありません。相場が沈み込む局面が続けば、借入金利を下回る、あるいはマイナスになることも当然あり得ます。繰上返済は「確定した無リスクのリターン」、資産運用は「不確実性を引き受けたうえでの期待リターン」という、性質のまったく違う選択だということは、はっきりお伝えしています。それに、資産運用は流動性が保たれている分、途中でつい取り崩して他のことに使ってしまいやすい、という人間らしい弱さもあります。繰上返済のように「実行したら後戻りしない」仕組みには、そうした意思の弱さを補ってくれる効果もあるんですね。

どちらが正解、というよりも、いまの金利水準、控除がどれだけ残っているか、ご自身がどこまでリスクを引き受けられるか、そして運用を続けていける意思の強さ。この4つを合わせて考えていただきたい論点だと思っています。

審査に通ることと、返し続けられることは、別の話です

金融機関の審査は、あくまで「貸しても大丈夫か」という金融機関側の判断です。審査に通ったからといって、そのご家庭にとって適切な借入額だと保証されたわけではありません。

団体信用生命保険の保障内容、勤続年数、他の借入(車のローンや奨学金の返済など)の有無も審査に影響しますが、それをクリアすることと、35年間安心して暮らせることは、まったく別の物差しで測る必要があると、いつもお伝えしています。

まとめ

住宅ローンは、人生で最も大きな借入です。だからこそ「いくら借りられるか」ではなく、「毎月いくらなら、この先の暮らしを圧迫せずに払い続けられるか」から逆算することが大切だと、私は思っています。

金利のある世界に入りつつあるいま、変動金利を選ぶなら金利上昇シナリオへの備えを、固定金利を選ぶなら総支払額の重さを、それぞれ具体的な数字で確かめてから契約していただければと思います。

参照

※1 主要ネット銀行・大手行の2026年7月時点の変動金利公表値をもとにした業界メディアの集計による
※2 フラット35(買取型)および主要銀行10年固定金利の2026年7月時点の公表水準
※3 変動金利と固定金利(10年)の金利差に関する2026年7月時点の業界メディア試算
※4 2026年(令和8年)改正後の住宅ローン控除制度(控除率0.7%、控除期間は住宅の省エネ性能等に応じて10年または13年)に基づく
吉野裕一

この記事を書いた人

吉野裕一 吉野裕一

人生100年時代を安心して過ごせるようにライフプランにあったファイナンシャルプランをご提案しています。相談実績も多数あり、研修やセミナーの講師、コラムなどの執筆もしています。気軽にお問い合わせ下さい

この記事をシェアする