年金繰り上げ受給と繰り下げ受給どちらが得?60歳から投資運用vs75歳まで繰り下げの損益比較

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2026.04.27

老後の年金受給において、60歳からの繰り上げ受給と75歳までの繰り下げ受給のどちらが有利なのか。多くの方が悩まれる問題です。今回は、繰り上げ受給した年金を年率4%で運用した場合と、繰り下げ受給を選択した場合を詳細に比較し、どちらが95歳まで生きた場合により多くの収益をもたらすかを検証します。

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繰り上げ受給+投資運用戦略のメリットとデメリット

繰り上げ受給の基本的な仕組み

年金の繰り上げ受給は、65歳より早く年金を受け取る制度で、受給開始年齢を1か月早めるごとに0.4%ずつ減額されます。60歳から受給する場合、24%の減額となり、本来の年金額の76%の受給となります。

例えば、65歳時の年金月額が20万円の場合、60歳からの繰り上げ受給では月額15.2万円(年額182.4万円)となります。

年率4%運用の前提条件

この戦略では、受給した年金全額を年率4%の利回りで運用することを前提とします。ただし、以下の要素を考慮する必要があります:


公的年金等の雑所得課税:

65歳未満:公的年金等控除額60万円
65歳以上:公的年金等控除額110万円
2026年(令和8年度)税制改正による基礎控除の再引き上げ:
・所得税の基礎控除(令和8・9年分、時限措置):合計所得金額489万円以下は104万円、489万円超655万円以下は67万円、655万円超2,350万円以下は62万円(恒久部分)
・住民税の基礎控除は43万円のまま据え置き(今回の改正の対象外)のため、所得税は非課税でも住民税は課税されるケースがある点に注意

社会保険料の負担:

60~64歳:国民健康保険料+介護保険料(40歳以上)
65~74歳:国民健康保険料+介護保険料(第1号被保険者)
75歳以上:後期高齢者医療保険料+介護保険料


運用益課税とNISA制度の活用:

一般的な投資:利益に対して20.315%の税率
NISA制度活用:つみたて投資枠(年間120万円)と成長投資枠(年間240万円)の併用で年間最大360万円まで非課税運用が可能
生涯投資枠1,800万円まで非課税で運用できるため、12年目以降は一部を課税口座での運用となる


インフレリスク:4%の名目利回りが実質的な購買力を維持できるか

75歳から運用資産を取り崩す際は、残りの資産を年率3%で運用しながら95歳までの20年間で計画的に取り崩すものとして計算します。

繰り下げ受給戦略の詳細分析

繰り下げ受給の増額効果

年金の繰り下げ受給は、受給開始を1か月遅らせるごとに0.7%ずつ増額されます。75歳まで10年間繰り下げた場合、84%の増額となり、本来の184%の年金を受給できます。

前述の例では、75歳から月額36.8万円(年額441.6万円)の受給が可能となります。

繰り下げ受給の重要な注意点

繰り下げ受給には以下のリスクが伴います:

未支給年金の取り扱い
繰り下げ待機期間中に受給権者が亡くなった場合、増額されない本来の年金額(65歳時点の金額)が未支給年金として遺族に支払われます。これは繰り下げによる増額効果を全く受けられないことを意味します。

機会損失のリスク
繰り下げ期間中は年金収入がゼロとなるため、その間の生活費を他の資産でまかなう必要があります。

95歳まで生存した場合の総受給額比較

繰り上げ受給+運用戦略の詳細試算

基本データ:65歳時年金月額20万円、60歳繰り上げで月額15.2万円(年額182.4万円)

60歳~64歳の手取り計算(公的年金収入182.4万円)

公的年金等に係る雑所得の計算:
65歳未満、130万円以上410万円未満:収入金額×0.75-27.5万円
182.4万円×0.75-27.5万円 = 109.3万円(雑所得)

課税所得(2025年税制改正適用):
合計所得金額109.3万円は132万円以下のため、基礎控除95万円を適用
109.3万円 - 95万円(基礎控除) - 社会保険料控除 = 課税所得なし

所得税・住民税:所得税0万円/年、住民税約1万円/年

社会保険料:
国民健康保険料:約10万円/年(所得割軽減)
介護保険料:約6万円/年
合計:約16万円/年

手取り額:182.4万円 - 1万円 - 16万円 = 約165万円/年

65歳~74歳の手取り計算(公的年金収入182.4万円)

公的年金等に係る雑所得の計算:
65歳以上、110万円以上330万円未満:収入金額-110万円
182.4万円-110万円 = 72.4万円(雑所得)

課税所得(2025年税制改正適用):
合計所得金額72.4万円は132万円以下のため、基礎控除95万円を適用
72.4万円 - 95万円(基礎控除)で課税所得なし

所得税・住民税:所得税0万円/年、住民税約1万円/年

社会保険料:
国民健康保険料:約7万円/年
介護保険料(第1号):約6万円/年
合計:約13万円/年

手取り額:182.4万円 - 1万円 - 13万円 = 約168万円/年

75歳~95歳の手取り計算(公的年金収入182.4万円)

公的年金等に係る雑所得:72.4万円(65歳以上と同じ計算)

課税所得:基礎控除95万円により課税所得なし

所得税・住民税:所得税0万円/年、住民税約1万円/年

社会保険料:
後期高齢者医療保険料:約8万円/年
介護保険料:約6万円/年
合計:約14万円/年

手取り額:182.4万円 - 1万円 - 14万円 = 約167万円/年

運用計算(NISA制度の詳細活用)

投資期間:60歳~75歳(15年間)
年間投資額の推移(改正後の手取り額):
60~64歳:161万円/年
65~74歳:167万円/年
75歳~:166万円/年

NISA活用の詳細(係数計算):

1年目~11年目(60歳~70歳):

60~64歳(5年間):年間161万円
65~70歳(6年間):年間167万円
年金終価係数(年率4%)を使用:
5年間の終価係数:5.416(161万円×5.416 = 872.0万円)
この872.0万円を6年間運用:872.0万円×(1.04)^6 = 1,103.4万円
6年間の終価係数:6.633(167万円×6.633 = 1,107.7万円)
11年目終了時の累計:1,103.4万円 + 1,107.7万円 = 約2,211万円
累計投資元本:161万円×5年 + 167万円×6年 = 約1,807万円(11年目で生涯投資枠1,800万円にほぼ到達)
運用益:2,211万円 - 1,807万円 = 約404万円(非課税)

12年目~15年目(71歳~74歳、課税口座):

年間投資額:166万円
年金終価係数(年率4%、4年):4.246
課税口座資産:166万円×4.246 = 約705万円
投資元本:166万円×4年 = 664万円
運用益:705万円 - 664万円 = 41万円
税引後運用益:41万円×(1-0.20315) = 約33万円
課税口座資産合計:664万円 + 33万円 = 約697万円

NISA口座の継続運用(12~15年目の4年間):

11年目終了時:2,211万円
複利計算:2,211万円×(1.04)^4 = 2,211万円×1.1699 = 約2,587万円
運用益:2,587万円 - 2,211万円 = 約376万円(非課税)

75歳時点の総運用資産:

NISA口座:約2,587万円
課税口座:約697万円
合計:約3,284万円

75歳以降の取り崩し運用(年率3%、20年間):

資本回収係数(年率3%、20年):0.0672
年間取り崩し額:3,284万円×0.0672 = 約221万円
20年間の総取崩額:221万円×20年 = 約4,420万円
うち運用益:4,420万円 - 3,284万円 = 約1,136万円
NISA口座からの運用益(約79%):約897万円(非課税)
課税口座からの運用益(約21%):約239万円(税引前)
課税口座の税額:239万円×20.315% ≒ 約49万円

年金手取り総額(60~95歳):

60~64歳:161万円×5年 = 805万円
65~74歳:167万円×10年 = 1,670万円
75~95歳:166万円×20年 = 3,320万円
合計:約5,795万円

総受給額:約5,795万円(年金手取り) + 約4,371万円(運用収益税引後:4,420万円-税49万円) = 約1億166万円

繰り下げ受給戦略の詳細試算

基本データ:75歳から月額36.8万円(年額441.6万円)受給

75歳~95歳の手取り計算(公的年金収入441.6万円)

公的年金等に係る雑所得の計算:
65歳以上で年金収入330万円以上410万円未満:収入金額×0.75-17.5万円
441.6万円×0.75-17.5万円 = 313.7万円(雑所得=合計所得金額)

所得税の計算(2026年度税制改正、令和8・9年分時限措置):
合計所得313.7万円は489万円以下のため基礎控除104万円を適用
課税所得=313.7万円-104万円(基礎控除)-社会保険料控除(約35万円) ≒ 約175万円
所得税(超過累進税率):約9万円/年

住民税の計算(基礎控除43万円):
課税所得=313.7万円-43万円(基礎控除)-社会保険料控除(約35万円) ≒ 約236万円
住民税(所得割10%+均等割):約24万円/年

社会保険料:
後期高齢者医療保険料:約20万円/年(高所得による所得割増)
介護保険料:約15万円/年(高所得のため高額)
合計:約35万円/年

手取り額:441.6万円 - 9万円 - 24万円 - 35万円 = 約374万円/年

総受給額:374万円 × 20年 = 約7,480万円

比較結果の詳細分析

95歳まで生存した場合の比較:

繰り上げ受給+運用戦略:約1億166万円
繰り下げ受給戦略:約7,480万円
差額:約2,686万円(繰り上げ戦略が有利)

2026年(令和8年度)税制改正の影響

2026年度税制改正大綱により、所得税の基礎控除がさらに引き上げられました(令和8・9年分の時限措置。合計所得489万円以下は104万円)。ただし、住民税の基礎控除は43万円のまま据え置かれている点が実務上の重要なポイントです。

繰り上げ受給戦略への影響:

60~95歳を通じて雑所得が72.4万~109.3万円の範囲にとどまり、基礎控除104万円により所得税はほぼ非課税
一方、住民税の基礎控除は43万円のままのため、住民税は課税される(年2~5万円程度)
手取り額は161~167万円/年に改善し、運用原資が増加

繰り下げ受給戦略への影響:

75~95歳の雑所得313.7万円は所得税・住民税とも課税対象
所得税は基礎控除104万円により負担が軽減(年約9万円)が、住民税は依然として高め(年約24万円)
手取り額は約374万円/年に改善

NISA制度活用の効果分析(係数計算による検証)

NISA非課税効果の内訳:

60~70歳(約11年間)の運用益:約404万円が非課税
71~74歳のNISA口座継続運用益:約376万円が非課税
75歳以降のNISA口座運用益:約897万円が非課税(20年間)
NISA非課税効果の合計:約1,677万円

もしNISA制度がなく全て課税口座で運用した場合:

非課税効果1,677万円×20.315% ≒ 約341万円の税負担増
繰り上げ受給戦略の総額は約9,825万円に減少
それでも繰り下げ受給戦略との差額は約2,345万円あり、NISA活用により更に341万円の優位性が追加

損益分岐点の分析①

繰り上げ受給戦略の強み:

1.75歳時点で約3,284万円の運用資産を確保
2.NISA制度により累計1,677万円の非課税効果
3.60歳から75歳まで15年間確実に年金受給
4.所得税がほぼ非課税(基礎控除104万円の恩恵)

繰り下げ受給戦略の弱点:

1.75歳まで年金収入ゼロのリスク
2.高額な雑所得313.7万円による所得税・住民税・社会保険料負担
3.繰り下げ待機中の死亡リスク(未支給年金は増額なし)

実質的に繰り下げ受給戦略が追いつくことは困難な状況です。

損益分岐点の分析②

繰り上げ受給戦略の強み:

1.75歳時点で約3,249万円の運用資産を確保
2.NISA制度により累計1,648.5万円の非課税効果
3.60歳から75歳まで15年間確実に年金受給
4.低い税・社会保険料負担で手取り率が高い

繰り下げ受給戦略の弱点:

1.75歳まで年金収入ゼロのリスク
2.高額な雑所得313.7万円による高い税・社会保険料負担
3.繰り下げ待機中の死亡リスク(未支給年金は増額なし)

実質的に繰り下げ受給戦略が追いつくことは困難な状況です。

損益分岐点の分析③

繰り上げ受給戦略の強み:

1.75歳時点で約3,450万円の運用資産を確保
2.NISA制度により累計1,630万円の非課税効果
3.60歳から75歳まで15年間確実に年金受給
4.低い税・社会保険料負担で手取り率が高い

繰り下げ受給戦略の弱点:

1.75歳まで年金収入ゼロのリスク
2.高額な雑所得313.7万円による高い税・社会保険料負担
3.繰り下げ待機中の死亡リスク(未支給年金は増額なし)

実質的に繰り下げ受給戦略が追いつくことは困難な状況です。

まとめ:どちらを選ぶべきか

詳細な税金・社会保険料計算およびNISA制度を活用した運用シミュレーションの結果、繰り上げ受給+運用戦略が約2,686万円の優位性を示しました。NISA制度の非課税効果だけでも約1,677万円(税額換算約341万円)の追加メリットがあります。

繰り上げ受給+運用を選ぶべき人

投資経験が豊富で、長期間の運用(15年以上)に自信がある
NISA制度を理解し、生涯投資枠1,800万円を最大限活用できる
年率4%程度の運用を継続できる投資先(インデックスファンド等)を選定できる
60歳から社会保険料負担を開始することに抵抗がない
早期から確実に年金を受け取りたい

繰り下げ受給を選ぶべき人

投資リスクを一切取りたくない
長生きする自信と健康状態がある(90歳以上想定)
75歳まで他の収入源(給与・事業・不動産収入等)で十分生活できる
75歳以降の高額な税・社会保険料負担を受け入れられる
市場変動に左右されない確実な収入を重視する

重要な注意点とリスク

繰り上げ受給+運用戦略のリスク:

1.運用リスク:4%の運用が継続できない場合、優位性が大幅に減少
2.NISA制度変更リスク:将来の制度改正の可能性
3.インフレリスク:物価上昇により実質的な購買力が低下する可能性
4.早期の社会保険料負担:60歳から社会保険料の支払いが開始
5.税制改正リスク:税制の改正は国内情勢などで変わっていく可能性もあるので、恒久的ではない可能性

繰り下げ受給戦略のリスク:

1.未支給年金リスク:繰り下げ待機期間中(65~75歳)に死亡した場合、増額効果を全く受けられず、.本来の65歳時点の年金額のみが未支給年金として遺族に支払われる
2.機会損失:75歳までの15年間、年金収入がゼロ
3.高額な税・所得税は軽減されたものの、住民税・社会保険料は依然として高負担
4.
インフレリスク:受給開始まで収入が固定されない

結論

数値的には繰り上げ受給+NISA活用運用戦略が大幅に有利ですが、運用に伴うリスクを十分理解することが重要です。特に、投資経験の有無、NISA制度の理解度、健康状態、他の資産状況を総合的に考慮した上で選択すべきでしょう。

また、繰り下げ受給の最大のリスクである「未支給年金問題」は、待機期間中の死亡により増額効果が完全に失われるため、慎重な判断が必要です。一方、繰り上げ受給戦略は早期から確実に年金を受け取りながら、NISA制度を活用した資産形成を図れるという安心感があります。
吉野裕一

この記事を書いた人

吉野裕一 吉野裕一

人生100年時代を安心して過ごせるようにライフプランにあったファイナンシャルプランをご提案しています。相談実績も多数あり、研修やセミナーの講師、コラムなどの執筆もしています。気軽にお問い合わせ下さい

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